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豆腐

 最近(でもないか)豆腐がブームだ。

 カロリーは低いからダイエットに良いし、それだけでなく良質の蛋白も含んでいるから成長期の子供にもうれしい。もちろん脂肪分も少なく、それでいて食べ応えもある。それだけではなく大豆には多くの他の栄養素も豊富なのだ。さらにおいしい。

 などと世間は豆腐をもてはやすが、私から言わせるとまだまだである。彼らは豆腐について何もわかっちゃいない。単なるミーハーのレベルといえる。

 大体彼ら(世間)の持つ豆腐についての知識はせいぜい味と、栄養に限られているではないか。しかも褒めるだけ。そんな一面的なものの見方でなにが明らかになるというのか。

 物事の本質をつかもうとすれば、そんな単純なことではいけない。

 まずは短所にも目を向けなければいけない。こういう、浮かれているようなときにこそ批判的な目が必要になる。その精神を怠ってると、後々取り返しのつかない事になってから後悔をすることになるのだ。

 そしてもう一つ、物事は多面的に見ていかなければならない。味や栄養が食物の全てではないからだ。味、栄養にニオイという項目も付け足したいと思う。

 これでも皆さんは豆腐が素晴らしいと思うだろうか。ここで

「豆腐は味、栄養だけじゃなくてニオイもいいし、やっぱり完全な食品といえるんじゃないの?」

などという人はまことに発想が貧困といわねばならない。私は多面的に見なければならないとといったはずだ。

 ここまで言ってもわからない人のために私が体験した豆腐の欠点、それもこれまでの長所を打ち消してしまうような欠点について話したいと思う。


 あれは4年ほど前になるだろうか。

 私はそのころ付き合っていた女性と夕食をとることになり、買出しに出かけた。メニューは、春とはいえまだまだ寒かったこともあり、水炊きに決まり、我々は肉やシメジ、春菊、そしてもちろん豆腐などを買い、意気揚々と車で帰途に着いた。

 そしてすぐに鍋を始めたのだが、しばらくして豆腐がないことに気づいた。

 しかし、食事を始めたのにわざわざ駐車場までとりに行くのも面倒で、そのまま放置してしまったのだ。後で取りに行けばいいかと思ったわけだ。

――――――それから3ヶ月――――――

 いや〜、豆腐が運転席の下にもぐりこんでいたわけです。そりゃ気づきませんよ。とにかくその豆腐は高知のくそ暑い夏場に3ヶ月間、車中で過ごしたわけです。

 まあ、ここまで言ったらわかると思いますが、要するに腐ってました。それだけの話です。

 ただ一つだけ言いたい。腐った豆腐のニオイを嗅いだことのある人、いるだろうか。…凄いよ。

 三ヵ月後のその日、ついに私は後部座席に置いた荷物を取りに行って運転席の下から滑り出てきた豆腐を目にしてしまった。

 そして、拾おうとした。丁寧に。

 しかし、数ヶ月ほったらかしにされた豆腐のパッケージは非常にもろくなっていたのだ!!


 破れるパッケージ。


 ああ、その時のニオイときたら。


 いや、私もあんまりいい育ちではない。自慢じゃないけども、今までの人生でいろいろなニオイを嗅いで来たものだ。半分固形になった牛乳とか、蛆の湧いた魚とか、夏休み中放置して内容物が半分とけかかった弁当箱とかね。

 まあ、確かに臭かったよ。ひどいニオイでしたよ。


 でも今回はレベルが違う。


 大便を鼻に詰めてもあそこまでは臭くないと断言できる。

   真剣に意識が飛びそうになった。物凄いんだよ、豆腐。伊達に「腐」の字をつけていないって感じ。

 あ〜、なんだろ、ニオイの質はそう珍しくはない。まあ要するにゲロに似たニオイ。でもその量というか密度が尋常でない。

 表す言葉がなかなか見つからないが…皆さんは知っているだろうか、純度100%のアンモニアのことを。

 あれ、直接鼻で嗅いではいけないと決まっているのだが、その理由がわかるだろうか?それは

臭すぎて嗅ぐと「気絶するから」なんだけども、この腐豆腐のニオイはそれに匹敵するといえるだろう。

 不意に嗅がされたら絶対に気絶する。

 そんなニオイが車に立ち込めた私はどうすればよいのか。

 とりあえず、窓を開けてみた。車から辺りに広がるゲロ臭。新手の兵器と勘違いされそうです。ご近所さんからのクレームが怖いけど、この車を移動させるのは人間には恐らく不可能であろう。そのまま一時間ほど放置してみた。

 …全くニオイがなくなる気配がありません。

 しょうがないから次に窓を開けて走ることにしました。車に入るとはっきり言って息ができない。誰もいないのにもらいゲロしそうな感じ。とりあえず窓を全開にして走り出す私。

 恐ろしいことにそれでも息が出来ないくらい臭い。しょうがないから運転席の窓から顔を出して、半分箱乗りのようになりながら正しい空気をゲット。周りから見ると異常な体勢で運転しております。

 で、そのままいくら走ってもニオイが全く取れない。異常なニオイの量といえる。とりあえず、一緒に豆腐を買った女性のところへ報告に行かねば、いや、このニオイを嗅がせてやらねば!意味のない義務感に駆られ、女性を駐車場へ呼び出します。

 私「おはよー!(すでに昼過ぎ)」

 彼女「どうしたん、こんな早く…んん?…え、なに!?」

まだ3mは離れているのに既に異変に気づく彼女。それ以上近づこうとしません。

 私「いいから、ちょっとこっち来てみなよ。いいものあげるから」

 彼女「えぇ!?これなんのニオイなん!?」

 私「まあまあ、いいからこっち来てみなさい。」

あまりのニオイに鼻が馬鹿になったのだろうか、彼女が近づいてきたので、車の中を嗅がせてみた。

 彼女「※〒〓▲∀Ж刀H!☆◎!?」

彼女は何らかの音声を口から発して遠ざかっていきました。口を押さえてはいるが吐いてはいない模様。よかったよかった。

いや、よくない。

 全然良くない。まあとにかく、結構走ったのにニオイは全く取れていなかったわけです。どうすればいいんだ。とりあえず今日は窓を開け放して放置することにしました。

 翌日。ニオイはいささかダウンしてました。

 ついさっき車で20人くらいに吐かれたばかり、くらいには落ちていました。昨日よりはましだけど、無臭からは程遠い。もうこうなったらなにか科学の力に頼るしかない。

 ニオイのもとは、車の床に染み込んでしまった、豆腐の容器に入っていた水だから(豆腐本体じゃないんだよ!?)、消臭スプレーを使っても意味ないわけです。根こそぎとらないとね。だから使いましたよ、あのファブリーズを。

 とりあえず、2、3日にかけて1本まるまる使いました。

 消えない。…いや、少しはましになったのか?

 そう信じてどんどん使いました。結局、一週間くらいかけて3本ほど使ったところでニオイは我慢可能な線(ついさっき1人に吐かれたくらい)まで落ちました。まぁファブリーズのせいか、時間のせいかは微妙だけど…

 その後も、ニオイが完全に消えるまでは2ヶ月ほどはかかったでしょうか。その間私はずっとゲロ臭に苦しんでいたわけですよ。

 まあ長くなりましたが要するに

 「豆腐をなめるな」

そう言いたかったんです。

 どんなに外面が良くても、その仮面がいつ外れるかはわからない。そしてその真の姿は仮面が外れたときに初めてわかるものなのだから。    


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